「フード・マイレージ」と「カーボン・フットプリント」
 フード・マイレージ(Food Mileage)とは、イギリスのロンドン市立大学の食料政策の教授であり消費者運動家のティム・ラング(Lang Tim)氏が「フード・マイルズ」として1994年から提唱し始めたもので、「人間はなるべく近くで収穫された食料を食べたほうがよい。遠くで取れたものに頼れば頼るほど、輸送に伴う環境汚染を多くする」という主張です。日本では、農林水産省農林水産政策研究所が「フード・マイレージ」として提案したもので、近年、「地産地消」がいわれるようになりましたが、考え方としてはこれと同じです。

 フード・マイレージの計算の仕方は簡単で、輸入相手国別に輸入数量をトン数で集計し、それに相手国の港から輸入国の港までの距離を掛け合わせた(トン・キロメートル、t/km)で表します。2000年の日本のフード・マイレージは約5,000億トン・キロメートルで世界一です。この値は、人口が2倍あるアメリカの約3.7倍、国民1人当たりにしてみると約4,000トン・キロメートルでアメリカの約8倍にもなります。食と農の事情がよく似ている韓国と比べても、約1.2倍になります。その後のフォード・マイレージはさらに増大しつつあります。

 ティム・ラング氏の主張する「輸送に伴う環境汚染」について、野菜を例にみてみましょう。生鮮食品である野菜の長距離大量輸送が可能になったのは、主に2つの輸送技術が開発されたからであるといわれています。1つは化学処理であり、もう1つは低温処理です。
 第一の化学処理では、輸送中にカビが生えたり虫に食われたり、変色したりしないように様々な合成化学物質が使われます。処理された化学物質の過度の残留で輸出国へ返送される場合さえもあるようです。また、これらの合成化学物質相互の反応で、予想できない複合作用が発生し、そのことが食の安全を損ない、同時に環境汚染につながることもありえます。
 第二の低温処理では、長距離輸送ともなると、それに要するエネルギーは膨大になります。そのような低温処理エネルギーに加えて、輸送に伴うエネルギーも必要となります。我が国の輸入食料の輸送に伴うエネルギーについてだけみても、年間の二酸化炭素の排出量は、輸入業務によって発生する1,690万トンと、その国内輸送に伴う900万トンの合計2,590万トンになるという試算があります。輸入食品を食べるごとに、「地球温暖化」を促進しているのです。

 フード・マイレージはもう古い、ということで、「カーボン・フットプリント」という考えがあります。カーボン・フットプリントは、“商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至までのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2量に換算して、凍害商品及びサービスに簡易な方法でわかりやすく表示する仕組み”と定義されています。
 例えば、地場産であっても、施設園芸で大量の重油を燃やして生産したキュウリは、南米のチリから輸送したキュウリよりもCO2排出量が多いかもしれないというのがその根拠です。イギリスでは、ポテトチップスの袋に、ジャガイモの生産から加工、輸送を経て店頭に並ぶまでの全過程を合計したCO2排出量を記載するメーカーがあるそうです。
 スイス最大の生協(Migro)では、CO2 Championという取り組みで、いくつかの商品に2008年から同様の表示を始めているとのことです。これらは義務化されてはいませんが、このLCA(ライフ・サイクル・アセスメント=商品の生産から消費・廃棄・再利用までの全行程における環境負荷を評価する手法)に基づくカーボン・フットプリント(CO2排出量の表示)の考え方は重要であると思われます。農林水産省でも、CO2の「見える化」という表示の取り組みを始めました。それらは、低投入、地産地消、旬産旬消が環境にもっとも優しいことを数値化して納得していく試みであるとみられます。