食物アレルギー
 生体は、体に異物(抗原)が最初に侵入した時点で抗体や感作(かんさ)リンパ球をつくり、抗原が再び侵入した時に抗原と抗体が結びつき(抗原抗体反応)、抗原を無害化する能力をもっています。これが免疫反応といわれるものです。しかし、状況によっては免疫反応によって生体に各種の傷害を起こすことがあり、この場合をアレルギー反応といいます。
 アレルギー反応は、原因となる抗体の種類やリンパ球により、T型(即時型、アナフィラキシー型)、U型(細胞損傷型、細胞溶解型)、V型(免疫複合体型、アルサス型)、W型(遅延型、細胞免疫型)の4つの型に分類されます。抗体は、グロブリンというタンパク質の一種で、免疫に関わることから「免疫グロブリン(Immuno−globulin)」と呼ばれています。それにはA、D、E、G、Mの5種類があり、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、IgMと表します。

 アレルギーの原因となる物質には、細菌、ウイルスなどの微生物、食物、薬、花粉やダニの糞、猫や犬の毛、化粧品や装身具、歯の治療に使う金属やドアノブなどの金属製品などがあります。食物が原因でアレルギー症状を起こすことを「食物アレルギー」あるいは「食品アレルギー」と呼んでいます。

 食物に含まれ、免疫系に認識されてIgE抗体の産生を誘導する物質(抗原)をアレルゲンと呼んでいます。抗原となりやすい食品成分は「タンパク質」です。ただ、タンパク質ですべての人がアレルギーを起こすわけではなく、起こしやすい人とそうでない人がいます。タンパク質は「アミノ酸」がたくさんつながったものです。このようなタンパク質にエピトープ(抗体が特異的に結合する抗原のアミノ酸配列)が含まれている場合にアレルギー反応を起こすと考えられています。しかし一般に食品のタンパク質は、数個ずつのアミノ酸(通常は2〜3個)がつながった状態にまで消化・分解され吸収されます。この状態でエピトープが分解されていれば、抗原にはならないと考えられます。しかし逆に、消化後もエピトープが分解されていなければ、アレルギー反応性は必ずしも低下しないと考えられます。そこで、消化器官の未熟(未発達)な乳幼児などでは、十分にタンパク質を消化・分解できず、アミノ酸が10個程度つながったままの状態(エピトープが残存する確率が高い状態)で吸収されてしまい、アレルギーを起こしやすくなるといわれています。

 アレルギーの原因となる可能性がある食物について、日本では食品衛生法施行規則により「特定原材料」として表示が義務付けられています。それには卵(玉子、マヨネーズなど)、乳(牛乳、乳製品、チーズなど)、小麦(パン、うどんなど)、そば−日本そば、落花生(ピーナッツ)、えび(海老フライ、エビ天ぷらなど)、かに(上海ガニ、松葉ガニなど)が該当します。また、特定原材料に準ずるものとして「特定原材料等」として表示が推奨されるものに、あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、鮭、鯖、大豆、鶏肉、豚肉、まったけ(松茸)、もも(桃)、やまいも、りんご、バナナ、ゼラチンがあります。なお、小児と成人では原因となる食品に違いがあり、小児では卵、牛乳・乳製品、小麦、甲殻類、魚介類が多く、成人では卵、牛乳が少なく、甲殻類、魚介類、果実が多いことが知られています。

 食物アレルギーを回避するには、原因となる食物を摂取しないこと(食物除去)が基本ですが、食物除去にはかなりの労力を必要とし、ストレスを生じやすいといえます。また食物除去は、栄養のバランスを欠きやすいので、代用食品等を利用することが必要になります。なお、アレルゲンの抗原性は、加工あるいは加熱で低下することがあるので、食物除去の代わりに加工品を利用することでよい結果が得られる場合もあります。一方、麦類、ダイズなどでは、もともとアレルゲンを含まない小麦、大豆などを生産する品種を開発する努力もなされています。