小農・家族農業とアグロエコロジー
2007年のサブプライムローン問題、2008年のリーマンショックに端を発した世界食糧危機を受けて、それまでの農業発展モデルやそれに基づく政策(規模拡大を促進する構造改革、貿易自由化と輸出促進政策、規制緩和・民営化など)の有効性を問い直す機運が各国で高まってきました。こうした“視点の変革”の口火を切ったのは、経済開発を使命とする世界銀行(世銀)でした。世銀は、IAASTD(International Assessment of Agricultural Knowledge, Science and Technology for Development:農業発展のための知識、科学、技術の国際的評価)というプロジェクトで商業的農業の見直しを進め、2009 年に「岐路に立つ農業」(Agriculture at a Crosroads)という大部の報告書に取りまとめて公表しています。
 2013年には国連貿易開発会議(UNCTAD)が、『Wake up before it is too late』(手遅れになる前に目覚めよ〜気候変動時代における食料保障のために、農業を真に持続可能なものに〜)と題した報告書を発表し、その中で「世界は農業開発において、「緑の革命」から「生態学的強化」アプローチへのパラダイムシフトを必要としています。これは、従来の単一栽培ベースの外部投入依存度の高い工業的生産から、小規模農家の生産性も大幅に向上させる持続可能な再生型生産システムの組合せへの急速かつ大幅な移行を意味します」と述べ、大規模的農業から小規模家族農業によるアグロエコロジー的農業への転換が急務であることを訴えています。
 この“アグロエコロジー”という概念は、1970年代になってカリフォルニア大学バークレー校のミゲール・アルティエリ教授(当時)によって展開されてきた考えです。同じカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)のグリースマン名誉教授(Stephen R. Gliessman)は、「緑の革命」(化学肥料と農薬の多用で発達した工業化された農業)に対する反省と、南米で目の当たりにした伝統農法の学びの上に、アグロエコロジーを「生態系の概念や原理を持続可能なフードシステムの設計と管理に応用する学問」と定義し、生きものと生きものの関係に重きをおき、人の営みも生態系に含めたうえで、持続可能性(サステナビリティ)を論じています。
 こうした一連の動きの中でFAOは、“地域の状況に適応し、最適化されるシステム再設計フレームワークを生成することを目的に”、2018年に開催された「第2回FAOアグロエコロジー国際シンポジウム」以来、アグロエコロジーの10要素(原文和訳)の作成を検討してきました。アグロエコロジーの概要を述べたFAOの解説によると、“アグロエコロジーは科学であり、一連の実践であり、社会運動でもあり”ます。